60年の歴史を持つ藤沢市唯一の映画館「フジサワ中央」(藤沢市藤沢、TEL 0466-22-9101)が8月31日で閉館する。
3階メイン劇場「フジサワ中央1」のロビーに掲げられたメッセージ
茅ヶ崎市や平塚市など近隣のシネコン(複合映画館)急増による客足減、興行収入の不足分を補ってきた所有ビルのテナント料収入が2008年のリーマンショックの影響を受け激減したことなどが閉館の理由。現在、藤沢市辻堂駅北口周辺で再開発が進められている湘南C-X(シークロス)にも大型シネコンの進出が既に確定している。
藤沢映画興行が経営する同館は1950(昭和25)年、藤沢市南口で開業。1972(昭和47)年まで営業を続け、小田急百貨店建設のため一度閉館したが、1977(昭和52)年に北口で営業していた「フジサワ東映」を館名変更し、「フジサワ中央」として再スタートした。現在のビルは1986(昭和61)年に建てられたもの。3~4階部分にある「フジサワ中央1」(207席)、地下1階の「フジサワ中央2」(126席)から成り、深い赤色のじゅうたんや重厚感のあるドア、天井にかかるシャンデリアなどが時代を感じさせる。
独立系映画館として、シネコンでは扱わない秀作の上映や独自サービスの導入などさまざまな工夫も行ってきた同館。「オタク」の恋愛物語を描いた「電車男」上映の際には、窓口で「ヲタクです」と申告するとチケット代が割引になるサービスを企画し注目を集め、海外メディアにも取り上げられた。「20世紀少年」では、実施日・時間非公開で携帯電話を使ったチケットプレゼント企画を実施、大きな好評を得たという。
同館1階には現在、「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の手描き大看板を掲示するほか、60年の歩みを写真や映画チラシなどでたどる展示コーナーを設置。400枚を超える作品チラシ、前売り券、映画関連の古い雑誌などを展示する。館内2劇場のロビーには、利用者が映画館の思い出やメッセージなどを自由に書き込めるコーナーを設け、「わたしも(映画館と同じ)60歳。映画館の近くで生まれ育ち子どものころからずっと通ってきました」「初デートの場所がここでした。すごく楽しかったです。ありがとう」など、既に多くのメッセージが寄せられている。
最終上映作品は、中央1が「借りぐらしのアリエッティ」、中央2が「ポケットモンスター」と「ねこタクシー」。「ねこタクシー」は公開初日の今月21日16時より、監督を務めた亀井亨さんのトークショーが行われる(21日のみ中央1で上映)。
世田谷区から訪れた三浦直樹さん(58)は「今日は建物の写真を撮りに来た。中学時代から映画全盛時代、よくここで映画を見た。映画は残るが、この場所がなくなってしまうのは本当に寂しく残念」と閉館を惜しんだ。
同館営業管理部長の手塚たまきさんは「多くのお客さまから温かい『ありがとう』のお言葉をいただき感謝の気持ちでいっぱいです。閉館まで2週間弱、残りの1日1日、60年の歴史を振り返りながらお客さまとともにさまざまな思いを共有していきたい」と話す。最終上映作品の一つに「ねこタクシー」を選んだことについて、「終わり(閉館)は新しい始まりでもある。勇気と希望が描かれたこの作品は、最終上映に最もふさわしい」と、その思いを語る。
閉館後については未定。