

・撮影時期:2025年8月20日
・撮影機材:
・鏡筒:TAKAHASHI TOA-130NFB +TOA-35Flattener+Extender ED 1.5X (1500mm f/11.25)
・カメラ:ZWO ASI2600MM Pro
・フィルター:OPTOLONG SHO 3nm(Hα/OIII)
・マウント:ZWO AM5
・撮影した天体:亜鈴星雲(M27/NGC 6853)

天体データ
• 距離: 約1,360光年
• 分類: 惑星状星雲(白色矮星を中心に持つ星雲)
• 大きさ: 約3~6光年(見かけ直径8’×6’)
• 位置: こぎつね座(RA 19h 59m/Dec +22° 43′)
• 見頃: 日本では夏(6~9月)、藤沢市では南中高度およそ65°
M27は「亜鈴星雲(ダンベル・ネビュラ)」とも呼ばれ、死にゆく恒星が放つ“最期の輝き”です。太陽と同程度の質量の星が寿命を迎え、外層を宇宙空間に放出してできた星雲で、中心には白色矮星が残されています。星雲全体が淡い赤や青緑に輝くのは、放出されたガスが中心星の強烈な紫外線で電離し、再び光を放つためです。
藤沢の空でも夏の夜、こぎつね座が高く昇る頃、双眼鏡でその姿をうっすら確認できます。望遠鏡を通せば、両端が膨らんだ“ダンベル”のような形が浮かび上がり、宇宙の静かな終焉の美を感じられるでしょう。

図表:天の川銀河平面図(クレジット:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC/Caltech) )に杉山さん加筆
M27は、太陽(Sun)を基点に半径1,360光年(=外側にごく小さな距離)進んだ、「Orion Spur(オリオン腕)」の中に位置しています。天の川銀河の中では、私たちの太陽系にとても近い距離にある天体です。

図表:天体アプリSkySafari(2025年10月1日20:00の空を表示)に杉山さん加筆
M27は、8月から10月まで空の高い位置に現れます。地球から空を観察すると、秋の天の川に重なって見つけることができます。
天文学的背景
◇ 構造と特徴
• 星雲全体は、恒星の外層ガスが膨張してできた球殻構造。
• 青緑は酸素(OIII)、赤は水素(Hα)と硫黄(SII)の発光を示す。
• 内部には中心星(白色矮星)があり、表面温度は約85,000K。
• 外縁部は薄く広がる外殻で、ガスの拡散が進行中。
◇ 構造物の大きさの目安
• 星雲の直径:約2.5光年
• 中心星からのガス拡散速度:約30km/s
• 星雲の外縁部までの拡張時間:約9,000年
◇ 形成の過程
1.太陽と同程度の恒星が寿命を迎える
2.外層が赤色巨星期に膨張・放出される
3.核が白色矮星として残り、放出ガスを電離
4.数万年のうちに拡散し、星雲はやがて宇宙空間に溶けていく
◇ 発見と観測の歴史
• 1764年、フランスの天文学者シャルル・メシエが発見し「M27」としてカタログ登録。
• 最初に発見された惑星状星雲としても知られ、名実ともに“惑星状星雲の原点”。
• 近年ではハッブル宇宙望遠鏡により、ガスの層構造や磁場による形状変化が詳細に観測されている。
神話・伝承
• こぎつね座は、ヘルクレス座とわし座の間にあり、古代ギリシャでは“ヘルクレスが投げた子狐”と伝えられる。
• 星座自体は小さいながら、天の川の中に輝くため、星雲や星団の宝庫として知られる。
• 日本では“夏の天の川の宝石箱”として、七夕の星々とともに語られることもある。
読者への豆知識
1.惑星状星雲の誤解:「惑星のように見える」ことから命名されたが、惑星とは無関係。
2.色の違い:中心星からの紫外線が元素を電離し、酸素が青緑、水素が赤に輝く。
3.寿命の儚さ:数万年で拡散し、星雲として見える期間は宇宙的には一瞬。
4.白色矮星の未来:太陽も数十億年後、同じ運命をたどると考えられている。
5.観望のコツ:夏の夜、高度の高いこぎつね座を双眼鏡で探すと、淡い雲のような姿が見つかる。
M27はダンベルや、“死にゆく星の残光”とも呼ばれますが、夜空で見るとまるで宇宙に浮いたキャンディーのようです。
淡い光を引き出すためには、HαやOIIIといったナローバンド撮影が効果的です。
中心星の光が強すぎるため、露光時間を変えた複数枚を合成し、明暗のバランスを整えています。
夏の夜、天の川の中に浮かぶこの星雲を見上げると、星の誕生と死がひと続きの物語であることを感じます。



