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鎌倉の人力車の先駆け・青木さんが半生語る 地元デザイン事務所が初の書籍

「青木さんの35周年と35歳の自分との縁も感じる」と本書を手にする古谷さん。「物としての本が大好き。ぜひ注文、購入は書店を通して」と呼び掛ける

「青木さんの35周年と35歳の自分との縁も感じる」と本書を手にする古谷さん。「物としての本が大好き。ぜひ注文、購入は書店を通して」と呼び掛ける

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 デザイン事務所「1ミリ」から4月2日、鎌倉で観光人力車の先駆けとして今も現役で活躍している青木登さんが語る新刊「鎌倉には青木さんがいる~老舗人力車、昭和から平成を駆け抜ける~」が発売される。

ソフトカバーだが、和の風合いで凹凸のある触り心地のいい紙を表紙に。本文は片手で持った際に指で文字が隠れないよう周囲の余白を大きめに取った

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 1983(昭和58)年、鎌倉初の観光人力車夫として開業し今年で70歳を迎える青木さん。長い人力車夫生活の中で2001年、人力車の大手チェーンが鎌倉へ参入し、さまざまな問題が起きたことが大きな試練だったという。「高校生のころ、この話題を耳にしたときからずっと青木さんのことが気になっていた」と話すのは同事務所の古谷聡さん。「面識はなかったが、市内で姿を見かけるたびに何か役に立てないかと考えていた」と続ける。

 古谷さんはデザインや編集の仕事がメインだが「物としての本が大好き。いつか自分の手で本を作ってみたかった」こともあり、たまたま青木さんとつながっている親戚がいるのを知ったことから本書の企画を思いついた。

 初めて会ったのは昨年4月。「職人のような風貌から頑固一徹な怖い人」に見え、「一冊も書いたことがない若造がいきなりお願いしたら怒られそう」と覚悟していたが、「あなたのような人が現れるのを待っていた」と笑顔で迎えられた。青木さんはちょうど翌年が開業35周年で記念に何か残したいと考えいたといい、「その場で快諾いただいた」という。

 「まずは乗ってみてください」と、いきなり車上から青木さんの背中越しに鎌倉の街を見ることになった。わずかの行程にもかかわらず、「やあ、青木さん」「こんにちは」「調子はどう?」と商店の人や顔見知りからたくさんの声が掛かり、観光客がカメラを向ければ気さくに応じる姿を見て「青木さんの存在自体がすでにこの街の一部になっていると感動した」と振り返る。

 その後、月に1回ペースでインタビューを重ね、青木さんの古いアルバムから一緒に写真も選んだ。最初はノンフィクションやインタビュー形式での執筆を想定していたが、話を聞くうちに青木さんの誠実で人を引きつける独特な語り口に魅了され、「語り」のスタイルで編集することに。読者に誤解を与えず、よりリアルに人物像を伝えるため、第三者の視点で古谷さんがプロローグとエピローグを執筆した。

 もともとデザインや装丁の経験はあったが、今回は印刷以外のすべての作業を古谷さんが担当し、同事務所初の出版物となった。「完全D.I.Y(Do It Yourself)ブックです」と笑う古谷さん。「記念本といえば重厚なハードカバーを想像しがちだが、『誰もが手に取りやすいような価格で』という青木さんの要望でソフトカバーにした」という。

 同書の出版を記念して4月10日に「茶房 有風亭」(鎌倉市雪ノ下2)で、4月21日に「かまくら駅前蔵書室」(鎌倉市小町1)で、青木さんと古谷さんのトークイベントを開く。

 古谷さんは「青木さんの人生の話でありながら、仕事に対する考え方『仕事哲学』が語られている。読者それぞれの立場で青木さんの思いをメッセージとして受け取っていただければ」と話し、「青木さんを通して鎌倉の魅力を再発見できるはず。今後も地元鎌倉に関わる本を出していきたい」と抱負を話す。

 定価1,200円(税抜き)。四六版170ページ、ソフトカバー。市内の主要書店で販売。全国の書店で注文できる。

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